能登半島地震以降、たくさんの方が蔵見学に来てくださるようになりました。特に蔵見学が「震災学習プログラム」となり、その後、県が能登への団体旅行を応援する割引・クーポンを出したことで、大型観光バスで団体のお客さんに頻繁に来ていただくようになりました。
そもそも蔵見学を始めたきっかけ
10年ほど前、醤油の五大産地のひとつ、小豆島へ旅行に行き、醤油蔵を見学させていただきました。小豆島にはたくさんの醤油屋さんがあり、醤油が生産されているだけでなく、観光の目玉のひとつにもなっていました。見学ビデオを見せてもらったり、ずらっと並ぶ木桶を見たり、醤油を味わったり、歴史を学んだり。
とてもよい経験と思い出になり、「カネヨ醤油でも、こんなことができるかも」と思ったのが、蔵見学を始めたきっかけです。また、他の醤油屋さんを見て、カネヨ醤油には、醤油づくりの最初から最後までを知っていただける強みがあるとわかりました。
富来の世界一長いベンチや能登金剛などを訪れる方に、もうひとつ、ちょっと変わった観光・体験の選択肢ができればいいな。そして、能登の旅の思い出のひとつとして少しでも残ったら嬉しい。そんな思いで、蔵見学を始めました。
震災前は年に数回。それでも続けました
震災前の蔵見学は、少人数で年に10回未満ほど。人数が多いときもあれば、「お二人だけ」ということもありました。それでも、お客様の反応がよいのが嬉しくて、細々とですが、ずっと続けてきました。
醤油は日本人にとって、とても身近な基本調味料です。でも実際にお話ししてみると、原料や作り方を知っている方は意外と少ないことがわかりました。一人でも多くの方に醤油のことを知ってもらえたら、と思っています。
また、蔵見学をしていると、商品を売るだけでは伝わらないことが、たくさんあるなと思います。どんな場所でつくっているのか。どんな人がつくっているのか。どんなふうに醤油ができているのか。実際に来てもらうからこそ、よくも悪くも知ってもらえる「リアル」があります。
10年ほど前に今の直売所に改装したのも、蔵見学をしやすくしたいというのが目的のひとつでした。七尾市の岡田翔太郎さんにデザインしていただき、とても素敵な直売所になりました。
ただ、カネヨ醤油は、志賀町の中でも辺鄙なところにあります。周りに住んでいる人も少ないので、基本的には、「とにかく外に出て販売しないと」と思い、遠くても配達したり、イベントに行ってみたり、ネット販売をしたりしてきました。
恥ずかしい話ですが、実はカネヨ醤油の直売所には、これまで買い物かごすらありませんでした(汗)。(まだまだ導入したいものや、もっとお店らしく整えたいところもあります。……が、考えるばかりで、なかなか進みません。)
でも今回、こんなにたくさんの方に足を運んでいただき、お話を聞いていただき、もちろん宣伝にもなりますし、「能登を応援したい」と、お買い物もたくさんしていただけます。また、カネヨ醤油だけでなく、近くでご飯を食べたり、買い物をしたり、泊まったりと、地域全体でお客さんに楽しんで、お金をおとしていただけます。
「来てもらえるって、(いろんな意味で) すごくいいな」と思います。ただ、来てもらえる魅力を作るのがなかなか難しく、大変なことです。今回の「震災プログラム」が、来てもらうひとつの魅力になり得るんだと感じています。
震災後の蔵見学
震災後は、醤油づくりの話だけでなく、地震の被害や復旧についてもお話ししています。実際には、醤油のこと以上に、地震の話を聞きたいというお客様が多いのだと感じています。あまり楽しい話ではありませんが、実際に能登に来て、今の様子を見てもらうと、学ぶことは多いと思います。
ただ、カネヨ醤油は小さな醤油屋ですので、見学できる場所も決して広くありません。そんなところに大型バスが停まり、大人数の方が蔵に入り、直売所では買い物に長蛇の列ができる。普段はここで、少人数で仕事をしている私たちにとっては、なかなか不思議な光景です。
一度、「どうしても行きたい」と言っていただき、通常は最大40名としているところ、50名近くの団体を受け入れたことがありました。さすがに直売所には入りきらず、工場に全員入っていただいて、お話をさせていただきました。普段は醤油をつくっている工場に、50名近い人がずらっと並んでいる。正直、異様な光景でした(笑)。
「こんなところで団体のお客様や修学旅行を受け入れていいのかな……」と思うこともあります。それでも、旅行会社の方から「また来ます」と言っていただき、本当に「また来ました(笑)」と言って、別の団体のお客さんを連れて来てくださったり。
見学を終えて帰られるときに「頑張ってくださいね」と手を握ってくださったり。
バスの窓から顔を出して、手を振ってくださったり。
最近地震があった熊本県から、団体のお客さんが来てくださったこともありました。
お客さんから逆に元気をいただくことがたくさんあります。
小さな醤油屋にできること
カネヨ醤油は、小さな醤油屋で、蔵見学をする場所も社員も時間も多くありません。それでも、能登観光のひとつとして、ここまで来てくださった方に、少しでもよい思い出や経験を持ち帰ってもらえたらと思っています。これからも無理のない範囲で、お客さんに楽しんでいただける蔵見学を続けることが、少しでも能登の復興につながっていけばと思っています。また、カネヨ醤油だけでなく、他にもたくさんある能登の魅力が、能登全体で伝わればいいなと思います。